SSブログ

抱きしめる

急に母親を亡くされた会社の先輩から言われた。
「動かなくなった母のそばで、とても後悔をした。それは、母が生きている間に、しっかり抱きしめなかったこと。冷たくなってしまった母の身体を何度も抱きしめては、どうして生きているうちにギュッと抱き合わなかったのだろうと、深く深く悔いた」

彼女はこうも言った。
「私が以前、あなたに『私はマザコンだ』と言ったらあなたも『私もですよ』と即答したよね。お母さんが元気なうちに、しっかりと抱きしめてほしい。私みたいに後悔しないように」

それを聞いて思い出した。姪が中学生だった頃か、母が「可愛い可愛い」と背中からギューッと抱きしめているのを見て、心の底から羨ましいと思ったことを。先輩の無念さを思い、泣いた。



母は背中が曲がり、すぐに息がきれてしまうので、家から出ることもほとんどなくなっている。

週に一度、おかずを持参して会いに行っているが、いつまで元気でいるかなんて誰にもわからない。


先週、実家に寄った時に「今日はお母さんをギューッとしに来たよ」と言うと、ちょっと驚いた後、「なんで?」と少し照れくさそうな顔をしていたが、構わずにそっと両手を背中にまわして優しく抱きしめた。
母も私の背中に手をまわして抱いてくれ、片手で頭を撫でながら「よしよし」「いい子いい子」と言ってくれた。私は母の曲がった背中をゆっくり撫でながら「お母さん、ありがとう」と言っていた。
母は「いつも仕事がんばって偉いねぇ。お父さんに似て、頑張り屋さんだから」と褒めてくれた。

誰も私の仕事について興味がないと思っていたのに…

それはきっと、孫の顔を見せてあげられないことに対して負い目を感じている私への、母の優しさなのだと思う。

これから先、母も父もどんどん小さくなり弱くなっていく。私は仕事に追われつつ、姉に頼りながら両親の世話をする中で、きっと小さな諍いやすれ違いが起こることだろう。
でも、その度にぎゅっと抱きしめよう。
そうすることで、何かが少しでもうまくいくような気がするから。
いつか訪れるさようならの時まで、何度もぎゅっと抱きしめあい、大好きだと伝えよう。


共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。